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明日はアキラの誕生日。
カヨは、メッセージを送ろうかまだ迷っている。
アキラと最後に会ったのは、いつだったろう。そう遠い昔ではない気がするのに、思い出せない。
最後に電話で話したのは、去年のクリスマスだったか。
カヨはふと、机の中の引き出しに入っていた絵葉書を手にとってみた。
その引き出しは毎日あけるし、毎日見ているのに、手にとって見るのは久しぶりだった。
絵葉書の写真は外国の美しい町並み。カヨがずっと行きたいと、アキラと話していた場所だ。
そんなこともこの絵葉書を手に取るまで忘れていた。
裏返し文章を読むのに覚悟が必要だった。それは、僅かに残るアキラへの後ろめたさだった。
文章の内容はアキラの旅先からの報告と、
カヨがアキラに送ったバースデーメールで心が温まったと書いてあった。
「心が温まった」
その言葉にカヨは心がますます痛んだ。
自分が愛されていたという記憶よりも、自分が人の心を温める存在だった幸福のほうが酷く鮮明に心に蘇る。
アキラとカヨは付き合ったわけではなかった。カヨはずっとアキラの告白を断り続けていた。
カヨもアキラのことを嫌いと思っていた訳ではないが、友達にしか思えず
「まだふたりとも若すぎる」と思っていた。
カヨは、ふいに先週今彼に言われた言葉が頭に浮かんだ。
「お前のことは好きだけど、愛してはいない」
ああそうだ。
「私もアキラのことを好きだけど、愛していたわけではなかった。」
そう思っていたけれど、実は本当に心から愛していたんだ――
カヨは、愛とはこの絵葉書のようなものだなと思った。
どんなに離れていても、時空を越えて人の心を温め癒すもの。
自分の心に、相手というもう一人の人間が宿るということ。
カヨは絵葉書を元の場所に戻した。
カヨの心は不思議と晴れやかだった。
人生という旅の中で、二人の道がひとつになることは無いだろう。それでも良いと思った。
「明日はアキラに素敵なメッセージを贈ろう。」
小学生の頃、バス通学をしていた時、バスの席の上にある網棚を見ながら思ったことを今でも忘れない。
「私もいつか忙しさややらなくちゃいけない事に追われて、
こんなのんびりした生活を懐かしく思う日が来るのだろうか。
そして、今こう思っていることをバスの網棚を見るたび考えるのだろうな…」
今から考えると、なんて子供だとあきれてしまうが、ある意味自分らしい気もする。
でも、あの時網棚をみて考えたことはその通りになっている。
いつも何かに追われている。
時間・仕事、そして自分の人生にまで・・・。
あのとき、網棚は空だった。
今、私の両手はいつも何かでふさがっていて、それは網棚にすら載せきれないほどの量だ。
いや、たぶん網棚に上げるほどの力も無い。
だからといって、網棚に載せれるだけの荷物でどこかへ行く勇気なんて無い。
追ってくるものから逃げることはできないし、逃げるなんて社会人がすることじゃない。
こなしていかなきゃいけない。それが正しい生き方。「そうあるべき」生き方。
そうやって、荷物ひとつで駆け出す勇気が無くて動けない自分に言い訳しているんだろう。
ただ、あの時よりマシなことは、
私の乗るバスの行き先は、私が選べるって事だけ。
それだけで十分だ。
5時限目の理科の授業。
いつもなら一番気合が入る授業なのに、今日は気合が入らない。
それは、今私の手の中にあるこの赤いボールペンのせいだ。
なんの変哲も無い、3本100円で売ってありそうな普通のボールペン。
これはあなたが昨日の放課後、忘れていったもの。
私の解いた問題をそのペンで添削してくれて、そのまま忘れていったね。
すぐに返したかったけど、もうあなたは帰っていたから家に持って帰ったんだ。
昨夜もいつものように今日あなたに添削してもらうために問題を解いていたんだけど、
その側にこのボールペンを置いていたの。
最低って思われそうだけど、大好きなあなたがいつも使っているこのペン。
欲しいなって思った。
このまま、机の中にしまってしまおうかって思いながらこのペンを見つめていたらね、
「どんな変哲の無い物だったとしても、その人にとってはとても大切な宝物なのかもしれない」
そう思った。
このペンがあなたにとって、ただのペンかもしれないけど、もしかして思い出の詰まった宝物なのかもしれない。
そう思ったら、明日まで大切に保管して返さないとって思ったんだ。
私にもそうゆうもの、あるから。
でも、いったいどんな思い出がつまってたりする?
私たち生徒のノートにひとりひとり丁寧にコメントした・・・
きっと、使いこんで、生徒への思いも詰まっているんだろうな。
このペンじゃないと字が書けない・・・
そんなことってあるのかな(笑)
彼女から貰った・・・
そんなの嫌。いっそ捨ててやりたい。でも、そんなことないって信じたい。
・・・
授業終了のチャイムが鳴った。
私はあなたにペンを返した。
「わざわざありがとう」
あなたは笑顔で言った。
今日のこの瞬間が、このペンに思い出として残ってくれることを、
そしてそれがあなたにとって宝物になれば良いなと、後ろめたさとともに、わがままにもそう思ってみたい。